(7) 着衣




1. 基本 1) 通肩 (1) 師が弟子に説法するとき、あるいは托鉢、座禅の時に用いるの着衣方式。
  通肩は福田の相を示す、と言われる。福田は、善い行いの種をまいて、功徳と言う
 収穫を得る田を意味する。
(2) 通肩という着方は如来の着衣の基本であるが、像例があまり多くない。宝冠阿弥陀
  像など特別な像で見られるが、一般の仏像ではあまり例がない。
(3) 作例:
  清涼寺釈迦如来耕三寺宝冠阿弥陀
2) 偏袒右肩
(へんたんうけん)
(1) 右肩はあらわに出し、衣は右の腋の下を通って体に巻く。弟子が師に奉仕する時や
  釈迦や目上の仏弟子に相対するときの作法で、右肩を出す。
(2) 偏袒右肩の変形ではあるが右肩にわずかに衣を残して右腕や右胸を出している仏像
  例は多い。
2. 種類 1) 袈裟
  @通肩
  A偏袒右肩
(1) インドの仏教僧団で,不用になったり,捨てられた長短の布片を縫い合わせ僧尼の
  着衣としたものを袈裟と称した。
(2) 布を縦に継いだものを条と言い、これを横につなぐ条数で3種に分かれる。
  1) 五条(小衣)普段着、
  2) 七条(中衣:190cmx110cm)外出着
  3) 九条以上(大衣)礼装。
(3) 基本にあるように着方は、通肩と偏袒右肩の二通りある。
2) 僧祇支
  @覆肩衣
  A覆腋衣
(1) 袈裟の下に着る肌着である。袈裟と縦はほぼ同大の長方形(160x100cm)の衣である
  が、横の長さは体をぐるりと巻く袈裟よりは小さい。
(2) 袈裟と同様に周囲に縁をめぐらし四隅には額を施し、縁の内側に二本の「紐」を付け
  た粗末な衣である。
  @覆腋衣:背中から体を覆って、体の前で合わせ、偏袒右肩のように右肩を露わにし
  右腋下を被う。
  A覆肩衣:マントのように左右両肩を覆う。法隆寺金堂釈迦如来は僧祇支を前で結ぶ紐
  が見えている。
3) 偏衫・褊衫
 (へんざん)
(1) 中国で考案された法衣で僧祗支の覆肩衣と覆腋衣をつなぎ発展させたもの。丸首シャツ
  の首の部分を左肩から右腋の下にかけて斜めに裁断したような形状の肌着。
  作例は少ないが、両袖を備え上半身をおおう編杉もある。
  身体に密着するような着衣のため、ほとんどひだがない。
(2) 袈裟を偏袒右肩に着て大きく胸を開けた仏像で、腹部に斜めに薄い衣のようなものが
  見える。
(3) 肩からつっている薄い布であるので、僧祇支と違って細かな襞を表現することは基本的
  にない。
3. 着法 @
 裙+袈裟(偏袒右肩)
(1) 像数:
  最も多く分布する。
(2) 作例:
 1)
 深大寺釈迦如来
 興福寺国宝館迦旃延
 平等院阿弥陀如来

※例外として通肩の袈裟
 を着ける作例。
 鎌倉大仏
 勝常寺薬師如来
 
1・2) 裙を着用し、袈裟を右脇から正面、左腕を覆い、左肩
  に掛けて背面に廻す。

3) 背面に廻した袈裟は背面を覆い、上方を右脇下にくぐら
  せて正面に廻し、一巡目の袈裟に重ねる。右肩は肌脱ぎと
  なる。

4) 大腿部の濃い部分は袈裟の二巡目の重なりの始まりを
  表す。

5) 一巡目に重ねた二巡目の袈裟で、正面及び左腕を覆い左
  肩に掛け、先端を背面に垂下させる。

6) 膝部は裙、薄い色の衣は一巡目の袈裟、
  濃い色の衣は二巡目の袈裟。

7) 左肩に正面から廻した二巡目の袈裟の先方を
  掛け背面に垂下させる。

※平安期のほとんどの如来像は偏衫を着けず偏袒右肩
  の袈裟を被る。
A
 裙+僧祇支+袈裟
(1) 像数:
  @に次いで数が多い。
(2) 作例:
 奈良博岡寺義淵僧正
 東大寺俊乗堂阿弥陀如来
 清涼寺釈迦如来
1) 下衣に腰巻風の裙を着ける。2・3) 内衣に僧祇支をまとう。

4) 僧祇支の上に袈裟を掛ける。袈裟は右腋下から正面、左
  手肩を覆い背面に回してから僧祇支の右脇下をくぐらせ前
  面に廻す。

5・6) 袈裟は左肩から右手腋の下に向けて背面を覆う。袈裟
  は僧祇支の右脇下をくぐらす。

7) 正面に巡らせた二巡目の濃い色の袈裟は、左肩・左上腕
  を覆って背面に垂下させる。

8) 二巡目の濃い色の袈裟が左肩を覆う。
9) 濃い色の袈裟が左肩から背面に垂下する。

※@左肩は袈裟と僧祇支2枚に覆われている。袈裟は右の肩
  は覆わずに右の脇の下をくぐる。
  A右腕を覆う僧祇支は、いったん袈裟の下になるが、そこか
  らたぐり出されて右腕を覆う。
  B左の肩と腕は2枚の布に覆われるが、右の肩と腕は僧
  祇支だけで覆われる。
  C背面をみると上の衣である袈裟の線が、左肩から右の腋
  の下へと斜めに刻出されており、そこから上(右肩)は僧祇
  支が出ている。
B
 裙+右偏衫+袈裟
(1) 像数:
  あまり多くない。
(2) 作例:
 薬師寺金堂薬師如来

※両袖偏衫の作例:
 法隆寺橘夫人念持仏
1) 下衣の前合わせの裙と、右偏衫(うへんざん)を着る。
2) 袈裟を右腋下から右偏衫の上に掛ける。腹前に右偏衫が
  細く見える。3) 2)の左側面。
4) 背面に廻した袈裟は上部を引っ張り上げ一部を右肩に掛け
  背面全面を覆う。
5) 大腿部の袈裟の濃い部分は袈裟の二巡目の重なりの始ま
  りを表す。腹部の袈裟の上に右偏衫が見える。
6) 二巡目の袈裟で正面・左腕を覆い、左肩に掛けて先端を背
  面に垂下。右肩に掛かる布(半被右肩)は背面から引き上げ
  て掛けた一巡目の袈裟の一部。
7) 膝部は裙。薄い色の衣は一巡目の袈裟、濃い色は二巡目
  の袈裟。
8) 左肩に正面から廻した二巡目の袈裟の先方を掛け背面に
  垂下させる。
C
 裙+右偏衫+
 僧祇支+袈裟
(1) 像数:
  極めて少ない。
(2) 作例:
 法隆寺金堂釈迦如来
 東大寺公慶堂地蔵菩薩、
 浄土寺阿弥陀如来